M6の衝撃!倍増されたNeural Engine、そこから見えるAppleの意図とは
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前回は登場したばかりのM6について、Appleシリコン初の3種類のCPUコアについてお話しした。今回はMacやiPadのAI性能に影響を及ぼす、Neural Engineの強化について解説しよう。
今回AppleはM6の発表の中で、M6のAI性能向上について「デュアル16コアNeural Engine」と紹介した。つまり「16コア構成のNeural Engine」を2つ載せた、という意味だ。ではなぜ「32コア構成のNeural Engine」ではなかったのだろうか。
これには2つの意味が含まれていると考えられる。その1つは個々のNeural Engineは、基本的に従来のNeural Engineと大きく変わっていない、という可能性。もう1つは2つのNeural Engineにはそれぞれ別の目的がある可能性だ。
M6のNeural Engineは新たにFP8をネイティブサポートしたという話もある。それが事実なら、それはNeural Engineにとって大きなステップアップとなる。従来のNeural EngineではFP16とINT8がネイティブサポートされていたが、FP8はソフトウェアによる変換が必要だった。FP8がネイティブサポートされれば、より賢く(パラメータ数が大きく)かつメモリ消費の少ないコンパクトなLLM(大規模言語モデル)をより高速に動かすことができる。
一方、2つのNeural Engineを個別に動かす目的とは何か。その背景には、それぞれのNeural Engineに異なるAI処理を担わせる意図があると考えられる。6月に開催されたWWDC 26の内容を紐解いてみると、そこで発表されたAppleの第3世代基盤モデル「Apple Foundation Models 3」に、2種類のオンデバイスAI(Appleデバイス上で動くAIモデル)が含まれていることに気付く。それが「AFM 3 Core」と「AFM 3 Core Advanced」だ。
Apple Machine Learning Researchサイトでは、デバイス上で動く「AFM 3 Core」と「AFM 3 Core Advanced」、そしてApple Private Cloud Compute上で動く「AFM 3 Cloud」、「ADM 3 Cloud」、「AFM 3 Cloud Pro」の5種類の基盤モデルが紹介された。「AFM 3 Core Advanced」と「AFM 3 Cloud Pro」は、AFM 3で新たに加わったAI基盤モデルだ。
「AFM 3 Core」は30億パラメータ級の「Dense」オンデバイス基盤モデルで、日常的な文章理解や生成を広く受け持ち、新しい Siri や Apple Intelligence のための基本レイヤーとなる。
一方の「AFM 3 Core Advanced」は「Apple Foundation Models 3」で新設されたモデルで、200億パラメータ級の強力な「Sparse」オンデバイスモデルだ。(ただしメモリ上に常駐するのは10〜40億パラメータ)「AFM 3 Core Advanced」は表現力の高い音声合成や高精度な音声認識を支えるほか、「ネイティブ・マルチモーダル(Natively Multimodal)」アーキテクチャだと説明された。つまり文章・画像・音声・動画などの種類の異なるデータを個別に変換することなく「単一モデルで統合的に理解し処理する仕組み」というわけだ。
WWDC26では音声処理しか紹介されなかったが、「AFM 3 Core Advanced」はいずれ写真や画像の内容を「理解」する能力と、より「高度な言語処理」を実現する能力などを備えるだろう。さらにユーザに代わってさまざまな処理を実行する「AIエージェント」としても活用されるはずだ。
この「AFM 3 Core」と「AFM 3 Core Advanced」はその役割が異なるため、Appleシリコン上では同時に動くことが求められる。両者はもちろん1つのNeural Engineでも処理は可能だが、従来以上のメモリ容量とNeural Engineの性能を要求することから「AFM 3 Core Advanced」は、Appleが「Most powerful on-device model」と呼ぶ製品でしか動かない。
WWCD26のキーノート「inteoducing Siri AI and more」の中で公表された「Most powerful on-device model」とは「AFM 3 Core Advanced」を動かすことができるデバイスを指している。
ここではiPhone AirとiPhone 17 Pro、M4以降と12GB以上のメモリを搭載するiPad、そしてM3以降と12GB以上のメモリを搭載するMacとされている。
画像:Apple WWDC26より
一方、M6では2つの基盤モデルを2基のNeural Engineで個別に動かし、負荷状況に合わせて個別に制御することで全体の性能とエネルギー効率を高めることができるはずだ。これによって新しいSiri AIや Apple Intelligence(AFM 3 Core)を軽快に動かしつつ、「AFM 3 Core Advanced」がもたらすAI体験を新たなステージに引き上げることができる。
そしてこの2基のNeural Engineは、新しいiPhoneに搭載される「A20 Pro」にも採用される可能性が高い。「AFM 3 Core Advanced」はiPhoneのような高性能なオンデバイスAIを求める製品でこそ、その威力を発揮するからだ。
しかしおそらくNeural Engineの進化はこれで終わりではなく、これからが本番だろう。革新的なAI技術が次々と登場する今、Neural Engineに求められるスペックは変化し続けている。
「Apple Foundation Models 3」は従来のAppleの基盤モデルとは異なり、GoogleのGeminiをベースに開発された新しい基盤モデルだ。つまりNeural Engineを新しい基盤モデルに最適化すれば、「Apple Foundation Models 3」の性能やエネルギー効率を大幅に向上することができる。おそらく来年登場するA21やM7では、Neural Engineは新たなるステージへの進化を迎えるだろう。
豆知識
実は2基のNeural Engineを搭載したのはM6チップが初めてではない。
M3 MaxシリコンをUltraFusion技術で2つ結合して生まれたM3 Ultra、M5 MaxシリコンをUltraFusion技術で2つ結合して生まれたM5 Ultraには2基のNeural Engineが搭載されている。
さらにあまり知られていないと思うが、M1 Maxにも2基のNeural Engineが搭載されていた。(従ってM1 Ultraには4基のNeural Engineが搭載されていた)しかしM5 Ultraとは異なり、M1 MaxのNeural Engineは実際には1基しか使われていなかった。
その後登場したM2 Maxではこの2基目のNeural Engineは姿を消し、そのスペースはGPUコアに置き換わっていた。
M1 Ultraのリリースを見ると、M1 Maxのダイ写真が掲載されている。隠されていたもう1つのNeural Engineがどこにあるのか、探してみてはいかがだろうか。
執筆:MysticRoom Tak.
