10年越しの企画、チームは半分に…Appleの年間ベストゲーム『ポケポケ』開発秘話から見えた「異常なこだわり」5選
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Appleが、2025年12月10日にApple表参道にてToday at Apple「スポットライト:App Store Awards 2025の受賞者をお祝いしよう!」を開催し、App Store Awards 2025のベストiPhoneゲームに選ばれたディー・エヌ・エーとクリーチャーズが開発し、ポケモンが運営するポケモンカードゲームを原作としたiPhone用ゲームアプリ「Pokémon TCG Pocket」の開発者トークイベントが行われました。
AppStoreのエディターであるNeil Appel氏がMCを務め、クリーチャーズの執行役員である岡本康太氏、クリエイティブディレクターの辻川亮氏、シニアイラストディレクターの齊藤はる氏の3人が登壇しました。
毎日2パック、無料でカードを開封するポケポケが提供するこのささやかな楽しみは、多くのユーザーの日常に溶け込んでいます。しかし、そのシンプルで心地よい体験の裏側には、10年以上にわたる構想と、数々の困難を乗り越えた開発チームの奮闘があったことが明らかになりました。
1. 10年越しの構想:『ポケモンGO』の成功が「遊ばれ方」を変えた
岡本康太氏は、スマートフォンでポケモンカードを遊ぶという企画の構想は、実は10年近く前から存在していた。しかし、当時は物理的なカードゲーム自体の認知度がまだ低く、一部のホビー層に留まっていたと当時を振り返っていました。
ホビーとして認知が高い状態ではなかった状況を大きく変えたのが、社会現象にもなった『ポケモンGO』の成功だったそうで、その爆発的な普及がもたらしたのは、単なる追い風ではなく、複雑なゲーム性よりも、多くの人が手軽に楽しめるシンプルな体験こそがスマートフォンアプリの鍵であるという、決定的なインサイトだったそうです。
この教訓を得た開発チームは、カードゲームアプリにありがちな複雑な対戦システムという先入観を捨て、「コレクションする」という、より普遍的で触覚的な喜びに焦点を絞る決断を下したそうです。
2. 「奇跡的だった」:物理カードとアプリを、たった半分のチームで開発
自社の成功を食い潰しかねないリスクを冒してでも、チームは大胆な決断を下したそうで、それが、中核を担うスタッフを半分に分け、物理カードと『ポケポケ』アプリを同時開発するという、無謀とも思える挑戦だったそうです。これは、既存の物理カードの品質と、全く新しいアプリの未来の両方を危険に晒す、まさにハイステークスな賭けだったと当時を振り返っていました。
急増した制作量に対応するため、新たに約100名のイラストレーターを採用し、チームの規模は一気に倍増。開発の現場には「今まで知らなかった経理の人とかもたくさん入ってきて」と語られるほど、社内の文化そのものが変容するほどの大きな変化がもたらされたそうです。
辻川氏は、この困難な時期を乗り越え、高品質な製品を生み出せたことを「奇跡的だった」と語っていました。
3. デジタルなのに「物感」を追求:国ごとに違う“開封音”までサンプリング
『ポケポケ』の設計思想の核心には、一見矛盾した執念が存在するそうで、それは、デジタルの世界で「物感」つまり、物理的なモノが持つ手触りや存在感をいかに再現するかという点だったそうです。
チームは、画面を通してカードの「厚み」や「触り心地」を感じさせるという目標を掲げ、そのこだわりは、二つの音に象徴されるそうです。
一つは、カードパックを開封する音。チームは実際に物理カードのパックを開ける音を録音しただけでなく、包装の素材が異なるアメリカ版やアジア版のパックまでサンプリングし、国ごとに違う「開封音」を再現したそうです。
もう一つは、毎日開封できることを知らせる「ピロリン」という通知音。これは初代『ポケットモンスター 赤・緑』のゲーム音を参考に作られており、長年のファンへの敬意が込められている。物理世界の再現と、デジタル史へのリスペクト。この二重のこだわりが、『ポケポケ』の体験を支えていると語っていました。
齊藤はる氏は「このバリッとした音とかですね。で、しかもこれもあの国内版の紙とえっとフィルムなんですけど、あのアメリカ版とかアジアとかいろんな国で違う素材を使っていたりするので音も違ったりとか...それをこのポケットで毎日感じてほしくて。」と楽しそうに紹介していました。
4. 便利さより「体験」を優先:9言語のカードを“そのまま”集めるという挑戦
シームレスな利便性を最優先する現代のアプリデザインの潮流に逆行するかのように、『ポケポケ』チームは9つの対応言語に関して、ある特異な選択をしたそうで、入手した外国語のカードをユーザーの母国語に自動翻訳せず、その言語のまま表示することにしたのだそうです。
この決断は、前述の「物感」という哲学の究極的な現れで、カードを翻訳してしまえば、それは単なる便利な「データ」になってしまう。しかし、そのままにすることで、プレイヤーは「海外のモノをコレクションする」という、物質的な所有感に近い体験を得られる。この仕様はサーバーコストの増大や複雑なバージョン管理など、技術的・費用的な大きな挑戦だったが、株式会社ポケモンやDeNAを含む関係者全員が「その方が面白い」と判断し、実現に至ったと語っていました。
5. 開発者を襲った「当たり前」の壁:新規ユーザーからの思わぬフィードバック
これほどまでに細部にこだわるチームでさえ、「知識の呪い」と呼ぶ専門家が初心者の視点を忘れてしまう認知バイアスからは逃れられなかったそうです。
ポケモンやカードゲームに初めて触れるユーザーからのフィードバックは、開発者たちが無意識に抱えていた「当たり前」を根底から揺るがしたそうです。
具体的には、以下のような声があったという。
• 黒いリザードンなど、いわゆる「色違い」のポケモンの価値や希少性が全く伝わらなかった。
• バトルでポケモンがベンチに下がるとマイナス効果が消える、という物理カードの暗黙のルールが、どこにも明記されていないため新規ユーザーを大いに混乱させた。
このフィードバックは、ある普遍的なデザインの真理を再認識させる貴重なきっかけとなった。すなわち、作り手にとっての「当然」は、しばしばユーザーにとっての「障害」である、ということが分かったと語っていました。
