Final Cut Pro X

Final Cut Pro X

駿河台大学メディア情報学部斎賀 和彦教授による「Final Cut Pro X」に関する考察レビューです。

Final Cut Proが発売されたのは1999年4月。ただしこれは英語版のみの話で、日本では同年12月のVer.1.2.1が最初になる。そして12年かけてFinal Cut Proはもっとも使われるプロ用ノンリニア編集アプリとしてのポジションを確立している。

そんななかで2年ぶりにメジャーアップデートを果たしたFinal Cut Pro Xは、最新のテクノロジーによって実現された機能、性能と、まったく新しいインターフェイス、過去のFinal Cut Proとの互換性を持たない点、削除された機能の数々に大きな賛否両論をもたらすことになった。

勝手に決めつけてはいけないが、私を含めプロユーザーは概してツールに対しコンサバティブである。慣れたツールによって(これには欠点を補うTipsも含め)構築されたワークフローを外部要因から変えられるのを嫌い、同時に高い安定性(信頼性)を求める。これ自体は日々の業務に失敗の許されない立場から言えばある意味当然で、逆に言えばFinal Cut Proがここまでシェアを伸ばしてきたのは、そのプロの要求に概ね応えてきたからだとも言える。

にも関わらず、Final Cut Pro Xは長年かけて構築した操作体系をあっさりと捨て、いくつかの重要な機能を削除し、Final Cut Pro をいったんリセット、再起動を行った。


今回のバージョンがFinal Cut Pro 8ではなく「X(テン)」であること、過去のFinal Cut Proプロジェクトとの互換性を持たないこと、これらは同時にFinal Cut Proの継続性の否定でもある。Final Cut Pro XはFinal Cut Proの延長線にあるものではなく新しく始まるアプリである。その意味で OS Xの最初のバージョンに似ている。未来を感じさせるが、現状に最適化はされていないのだ。それでもアップルはFinal Cut Pro Xへ舵を切った。なぜか?

アップルがやることにはすべて理由がある。多くの(?)プロユーザーの反発を承知で作り直したFinal Cut Pro Xはアップルの考える編集の再定義があるのだと思う。

Final Cut Pro 7がまだ現役で使える間に(そう、Final Cut Pro 7とFinal Cut Pro Xは互換性はないが共存は出来る)、いまの映像編集ではなく、近未来の映像編集を定義しようとしている。これが正解なのか、ただの勘違いなのかは歴史が証明するとして、ここではFinal Cut Pro Xが失ったものと得たものを述べつつ、アップルの考える次世代のワークフローを考察したい。


マグネティックタイムライン

マグネティックタイムライン

Final Cut Pro Xが新たに実装したものは、アップルの考える次世代の映像編集ツールの機能、もしくはその機能に必要なパワートレインと考えられる。

タイムラインの管理を圧倒的に簡単にする「マグネティックタイムライン」や「複合クリップ」、「オーディション」の機能が前者にあたり、64bit化、GPU積極利用は後者にあたる。なお、後者はすでに映像系(に限らず)ツールでは基本潮流になっているので、ようやく感がなきにしもあらず。


Power Mac G5

Power Mac G5

思えば2003年、Power Mac G5が初の64bitパソコンを謳い登場したとき、我々はほどなくOSとFinal Cut Proが64bit化し、ビデオ編集に革命を起こすと思っていたのだが、世界初の64bitプロセッサPCであるPower Mac G5はその真価を発揮することなく歴史を閉じ、アプリの64bit化もPremiereProに先を越されたのは多くのユーザーが知るとおり。ようやくアクセスメモリ空間はじめ、MacPro等のハイエンドMacintoshの真骨頂をみせる環境が整ったと言えよう。その一方で、7月リリースされるOS X Lionでさらにパフォーマンスが向上する余地が仕込まれているのか否かはわからない部分だ。


DVD Studio Pro

DVD Studio Pro

DVD Studio Proが無くなり、Soundtrack ProおよびColorはそのエッセンスがFinal Cut Pro X内に統合された。これには賛否両論あるが、かつてのように、現像、テレシネ、オフライン、オンライン、白完パケ、テロップ入れ、MAと分業された時代を前提としたワークフローがいまもベストかというと疑問があったのも確か。

タスクによって別アプリに送信しなければならないワークフローではなく、モジュールが切り替わるように同一アプリ内で完結するワークフローが求められているという認識だろう。個人的には餅は餅屋というか、音のハンドリングはサウンドエンジニアにゆだねたい気もあるが、アプリケーションの方向性としては支持したい。


失われた機能についてはもうちょっと複雑である。
というのも、Final Cut Pro Xで削除された機能は大別して以下のように考えられる。

1:アップルが考えるすでに役割を終えた機能(例:EDL書き出し、デッキコントロール)
2:なんらかの理由で実装が遅れている機能(例:マルチカム編集、XML)
3.:アップルの考えるより優れた操作性のため、割愛あるいは他の方法に変更された機能(例:オーディオトラック任意設定、トリム編集)

もちろんアップルはここの機能の削除/変更に関して理由を明示していないので、1〜3のどれに該当するかは謎の部分もある。また、1や3については、確信犯的に削除/変更しているものの、それが「数年後には無くて困らない(アップルが正しい)」のか「アップルのやり過ぎ(間違ってる)」なのかは難しいところで、おそらくユーザーの数だけ意見が分かれるところであり、悩ましいところである。一概にプロの映像編集といっても、業務内容、ワークフロー、バジェットは大きく異なる。

それを承知しつつ、考察してみたい。


複合クリップ

複合クリップ

1の筆頭にEDLとデッキコントロールが挙げられるように、Final Cut Pro Xはあきらかに主軸をファイルベースにシフトさせている。

民生機、業務用機含め、カムコーダーの主流がファイルベースシステムになって久しい現在、そのこと自体を批判するユーザーは少数だろう。ただ、デッキコントロール機能を平然と削除してきたのには少々驚いた。テープレス化が流れなのは異存はないものの、未だテープキャプチャー、書き出しを行う現場は多い。Final Cut Pro XプロダクトマネージャーSteve Bayes氏のコメント(NYTimes.comによるインタビュー)によれば、サードパーティ製のプログラムの使用を促している。テープ出力時のカラーバー生成機能の削除と合わせ、アップルがもはやテープベースを重要視していないのは明白だ。

削除された機能・・という言い方は適切ではないが、Final Cut Pro XはFinal Cut Pro 1から継承されてきたインターフェイスを捨てた。その象徴がシングルビューアだろう。


Adobe Premiere Pro

Adobe Premiere Pro

ソースモニターとレコードモニターを分離し、デュアルビューアとするインターフェイスはノンリニア編集ソフトの先駆であり長くデファクトスタンダードとして業界をリードしてきた「Avid Media Composer」が採用したUIだ。長くシングルビューアを採用してきた「Adobe Premiere Pro」がデュアルビューアに移行したように、中上級者用ノンリニア編集ソフトのスタンダードなスタイルとして定着している。Final Cut ProもVer.1からこのスタイルだ。

それがiMovieライクなシングルビューアへの転向。ただ、これをもってFinal Cut Pro Xが初心者指向に振ったというのは間違いだ。


Avid DS Software

Avid DS Software

Adobeの「Adobe After Effects」、Avidの最上位「Avid DS Software」、はシングルビューアである。両者に共通するのは精緻なエフェクト、カラコレ、合成等の画像処理が重視されるアプリケーションであるということ。

ディスプレイのアスペクト比が4:3ではなく16:10あるいは16:9が主流になり、そこで編集される映像のアスペクトレシオも16:9が主流になった現在、デュアルビューアレイアウトだと相対的にビューアサイズが小さくなっていたのも事実。個人的にはデュアルビューアへの切り替えが用意されていると良かったと思うが、Final Cut Pro Xのシングルビューアへの転換は悪い判断ではないと考える。心配だった素材、レコードの切り替えレスポンスもひじょうに快適。


2についてはすでに前述のSteve Bayes氏のコメントによって、マルチカム編集、XMLのアップデートでの復活が表明されている。他にも現状、削除されていながら元に戻る機能もあるはずだ(無かったらすみません)。

原因は違うものの、全滅していたFinal Cut Pro用のサードパーティ製プラグインについてもFinal Cut Pro X用開発SDK「FxPlug 2.0 SDK」が公開され、そう遠くないうちに再び各種のプラグインが並ぶだろう。Final Cut Pro Xに搭載されているエフェクトはiMovieライクな派手でインパクトが強いものの、使いどころの悩ましいものが多いため、定評あるサードパーティ製プラグインの対応は嬉しいところ。

もっとも過去に高額な投資を行ってプラグイン環境を構築していたユーザーが、再投資を強いられる可能性は低くない。このあたりは進化の痛みと捉えるしかないであろう。


インライン詳細編集

インライン詳細編集

3がまさに進化の痛みをどう捉えるかの部分。マグネティックタイムラインは編集時に重要なトラック管理の負荷を大幅に軽減し、編集の敷居を下げることに成功していると思うが、その一方で手練れのエディターがそれぞれ構築してきたトラック管理の作法やノウハウ、をご破算にしてしまった感はぬぐえない。

編集の敷居を下げ、多くのひとが編集を行うようになることが(おそらく)アップルが目指す編集アプリの方向性だし、その意義も理解しつつ、従来よりスピーディーさが阻害されることに不満を持つプロは多いだろう。例えばトリム編集モードが無くなり、詳細編集になったことで、トリミングにアウト側のラストフレームとイン側のファーストフレームを同時表示しながらコマ単位で尺調を行うことはできなくなった。詳細編集のイージーさも悪くないが、1フレ2フレを追い込んでいくとき感覚的な使い勝手は落ちる。

このあたりの微かな不満はゼロにはならないだろう。だが、Final Cut Pro Xによって、編集のスキルと呼ばれていたものの半分が編集ソフトを使い込むスキルであったこと、そしてこれからの編集スキルはまさに編集を構築していくスキルであることが明らかになったとも思う。


とはいえ、明らかに?な仕様変更も見受けられる。

例えばタイムラインの右下、タイムラインのズームレベルを変更するレバーが、リニアにズームレベルに反映されず、手を離したら反映されるというのは明らかに改悪に感じる(いくらノン「リニア」編集ソフトであってもだ)。ちなみにイベントブラウザでのズームレバーはリニアに追随する。


また、Final Cut Pro Xで多用することになりそうなインスペクタのショートカットは「command+4」が割り当てられているが、同時にリリースされた「Motion 5」では「command+3」である。個人的にインスペクタをもっとも使うアプリである「Keynote」では「command+i」である。このあたりの不整合ぶりはちょっとアップルらしくない雑さを感じる。


大きなところでは「共有」書き出しの非バックグラウンド化が気になる。メディアのトランスコードやレンダリングといった様々な処理をバックグラウンド化しユーザーに意識させないのがFinal Cut Pro Xの特徴だが、ムービー書き出し時には逆にフロントに出て他の作業をすべて止めてしまう。

共有書き出しはFinal Cut Pro 7ではバックグラウンド化されており、それがFinal Cut Pro 7のウリのひとつでもあったがFinal Cut Pro Xで後退した。

Compressor 4の外販化が関係あるのか無いのかは分からない(Final Cut Pro 7の共有は実質的にCompressorを使っていた)が、ここは64bit化の恩恵を大きく受ける部分だと期待していただけに残念だ。


現状で割愛された機能が必須のユーザーはFinal Cut Pro Xへの移行をしない、あるいは保留するべきだと思う。Final Cut Pro 7は現状で問題なく業務に耐える「現在のアプリ」である。Final Cut Pro XはそのFinal Cut Pro 7がある現在を前提とした近未来のアプリ提案である。

OS X初期の頃、OS 9とブート切りかえしながら、段階移行を行ったように、業務ユーザーは慎重に移行期を探ればよいと思う。Final Cut Pro Xに共感できなければ他のアプリに移行するのもひとつの選択肢だろう。「Avid Media Composer 5.5」はFinal Cut Pro Xよりは遙かにFinal Cut Pro 7に近いのだが、と自分は考える。

状況が異なるとは言え、写真が銀塩からデジタルに移行したとき、デジタルフォトは数々の欠点を抱え、アナログのポテンシャルには遠く及ばなかった(現在でも見方によってはアナログの優位性は残る)。そのとき、デジタルを否定し、アナログに固執したフォトグラファーは正解だったのか。そのなかで、いまも銀塩のみで一線に立つプロはどのくらいいるのか。

Final Cut Pro Xの提示する近未来の編集の定義が、すべて正しいとは思わない。

しかし、未来は前にしかないのだ。


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